[受験特集]薬学部入試のポイント
医歯薬予備校で化学を約20年担当、松本大地先生が入試のポイントを紹介!
2024年度 薬学部入試のポイント Vol.1
初めまして、医歯薬系専門予備校で約20年間、化学を担当して参りました松本大地です。化学科講師としての経験を活かし、これから1年間、このコラムを担当することになりました。薬学部受験に必要な化学の勉強法や受験情報等を紹介していきますので、よろしくお付き合い願います。
今回は、初回ということもありますので、まず、薬学部を取り巻く近年の環境の変化からお話したいと思います。
“医薬分業”が進展してきた結果として、薬学部が担う役割も変化してきました。従来の薬学部は(大学のレベル等によっても異なると思いますが)新薬を開発する研究者の養成を第一義的な目的とした感がありました。しかし、チーム医療・医薬分業が進む今日の医学・医療界においては、医師・薬剤師・看護師それぞれが専門家として患者と向き合う新しい医療体制が確立されようとしています。このような時代背景の中で薬剤師は従来にもまして、医療従事者として、重要なポジションを占めるようになり、その専門性を担保するために6年制の薬剤師養成課程が誕生したのです。4年制薬学部は従来のように新薬開発等の研究者養成課程と位置付けられます。
次に、この変化が薬学部入試に及ぼした影響を考察したいと思います。
(化学塾調べ)
グラフは全国私立大学薬学部入試の倍率(入学志願者÷募集人員)の推移を表していますが、2006年以降の倍率が2005年に比べて、かなり低下していることがわかります。2006年はまさに薬剤師養成課程が6年制に変更された年であり、また、私立薬学部の新設も相次いでいました。倍率の低下は、それら2つの要素が重なった結果であることは明らかです。(グラフの左側の縦軸は私立薬学部の総定員数、右側の縦軸は入試倍率)しかし、2008年以降の倍率はあまり変動していません。そして、グラフより近年、入試倍率が10倍を超えて推移していることから、薬学部人気が回復していることがわかります。2020年入試では、9.4倍とほぼ10年ぶりに10倍を切り、一昨年は8.4倍と倍率を下げましたが、これは、コロナ禍の影響で受験生の地元志向が強まった結果であると考えられます。すなわち、従来のような首都圏や関西圏の難関校へのチャレンジの減少(併願校の減少)が影響しているものと思われます。しかし、昨年は再び9.0倍へと上昇に転じています。これには、いろいろな原因が考えられますが、コロナ禍の影響が弱まったことが一つの要因ではないでしょうか。話を少し戻しますが、2006年以降の経緯について、少し説明しますと、薬学部の新設ラッシュは2003年より始まり、2008年まで新設および既存学部の定員増が続きました。そして、2008年をピークに2009年以降は総定員の削減が続いています。この総定員の減少はわずかではありますが、定員増に歯止めがかかったのには間違いありません。さらに、細かく見ていけば、2014年をピークに若干ですが倍率が低下しているのは、2008年のリーマンショック後、理系が人気となりましたが、近年では企業の採用が改善したため、文系人気が回復した影響が、出ているものと考えられます。(ただし、コロナ禍で不況が長引けば、再び理高文低が再燃すると思われます)しかし、少子化の現在、4年制私立大学の半数が定員割れをしていると言われています。そのような状況の中で10倍前後の入試倍率は、薬学部の人気の高さを物語っていると言えるでしょう。
■ 私立薬学部入試に関する試験科目・出題形式等について
まず、試験科目につきましては、全体の約4分の3の大学が3教科3科目型(最も多い募集人数の入試方式)であり、数(Ⅰ・A、Ⅱ・B(数Ⅲが出題されないのが、私立薬学部入試の特徴。例外として、立命館大学(全学統一理系及び学部個別理科1科目または2科目型の場合)や東京理科大学では数Ⅲが含まれる)・英は必須、理は大半の大学で化学(化学基礎・化学)が必須ですが、化学・物理・生物の中から1科目を選択できる大学もあります。ただし、3科目型の大学でも入試方式により、2科目で受験可能な大学もあります。(3教科4科目型(理科2科目)は立命館大学など限られる)残り約4分の1の大学は2科目または1科目でも受験が可能ですが、中・上位校のほとんどは、3科目型となっています。また、最近では一般入試で昭和大学薬学部等のように面接試験を課す大学もでてきました。面接の質問内容としましては、「なぜ医学部などではなく薬学部を選んだのか」「チーム医療とはどのようなものだと考えるか」等ですが、これは、受験学力だけではなく、しっかりとした目的意識をもつ生徒を受け入れたいという大学側の意思の表れだと思います。皆さんが受ける大学に面接試験があるかどうかは分かりませんが、仮に面接試験がなかったとしても、なぜ、薬学部を目指すのかをよく自問自答し、明確な意志を持って試験に臨んでほしいと思います。その他、帰国生・社会人を対象とした選抜試験を行う大学もあります。
配点(3科目型)につきましては、大半の大学で各科目100点ですが、慶応義塾大学、東京薬科大学、明治薬科大学(B方式後期)、同志社女子大学等では化学の配点が他の科目より高くなっています。科目数・配点は、同じ大学でも入試方式によって、異なる場合がありますから、事前によく調べて下さい。
出題形式(化学)につきましては、多くの大学で全問マークシート法が採用されていますが、すべて記述式(ただし、解答のみ)の大学や両方式を混合して出題する大学もあります。ただし、計算過程まで記述させる大学はほとんどありません。また、問題は大問4~7題で構成されているケースが多い一方で、全問が小問集合形式になっている場合もあります。
理論・無機・有機の各分野における出題割合につきましては、学部の性質上有機化学からの出題が多くなっており、このことは薬学部入試の大きな特徴と言えます。有機分野からの出題が全体の5割を超える大学も珍しくありません。しかし、一方で一般の理工系大学と同じように理論が重視され、有機からの出題が3割程度に抑えられている大学もあります。各分野からの出題割合は毎年大きく変わることはありませんから、志望校の傾向は赤本等でしっかり把握して下さい。
最後に合格最低点についてですが、薬学部の入試問題は同じ偏差値の一般の理工系学部の問題に比べるとやや容易な傾向にあります。したがいまして、合格ラインが60~75%と高くなっており、これも薬学部入試の特徴の一つです。したがいまして、科目数が少ない私立大学薬学部入試で合格を勝ち取るためには、苦手科目(分野)を作らないことです。合格ラインが低ければ、得意科目を伸ばし、苦手科目(分野)でそこそこの点数を稼いで合格するという勉強方法もありますが、薬学部入試では“その手”は使えないと肝に銘じるべきです。
■ 薬学部卒業生の就職先について
6年制の薬学科を卒業すれば、薬剤師となり調剤薬局や病院等の医療施設で働くことをイメージする人が多いと思いますが、薬学部の就職先は多様です。まず、製薬会社での研究・開発・製造・販売の仕事は、すぐに思い浮かぶでしょう。しかし、その他として、化粧品や食品会社での研究・開発等に携わることもできます。また、耳慣れない言葉だと思いますが、CRO(医薬品開発業務受託機関)は、今後の成長業界だと言われています。さらに、身近なところでは、ドラッグストア等や公務員への道を進む卒業生もいます。余談になりますが、予備校の化学科講師の中にも薬学部出身者がいます。ただし、就職先としては、あまりおススメできませんが・・・。
今回は初回ですので、薬学部を取り巻く一般的な話しになりましたが、次回より化学の学習についてお話ししていきたいと思います。