[受験特集]薬学部入試のポイント
医歯薬予備校で化学を約20年担当、松本大地先生が入試のポイントを紹介!
2019年度 薬学部入試のポイント Vol.11
いよいよ入試シーズンも本番を迎えました。今回は本年度の最終回ということで、有機化学の問題を解きながら説明していきたいと思います。最後の小問2題は、昨年度のセンター試験で出題されたものです。
【1】分子式CnH₂nで示される化合物Aがある。次の実験(a)~(c)を読み、下の各問いに答えよ。
(a) 化合物A 1.00gは2.85gの臭素と完全に反応した。
(b) 化合物Aに塩化水素を付加させると、不斉炭素原子をもつ主生成物と少量の生成物Cが得られた。
(c) 化合物Aをオゾン分解すると、アルデヒドDとアルデヒドEが得られたが、分子量はアルデヒドEのほうが大きかった。
(東邦大 改)
問 1 化合物Aの分子式を記せ。
問 2 化合物A~Eの構造式を記せ。
問 3 化合物Bの分子式で考えられる異性体は立体異性体を含めて何種類あるか。
【2】α‐アミノ酸が直鎖状に多数縮合重合したポリペプチドは一般に分子の一端にはアミノ基を他端にはカルボキシ基をもつ。下の各問いに答えよ。
問 1 ロイシンとフェニルアラニンが1.0×105個ずつ縮合重合したポリペプチドの分子量を求めよ。
問 2 100個のバリン分子が縮合重合したポリペプチド中の窒素の質量パーセントを求めよ。
(解答)
【1】
問 1 一般式CnH₂nはアルケンの他にもシクロアルカン(異性体の関係)がありますが、開環して反応するのは特殊な場合ですので、アルケンに付加反応が行われたと考えられます。
CnH₂n + Br₂ → CnH₂n Br₂
1molのCnH₂n(分子量14n) に1molのBr₂(分子量160)が反応しますから、
答 C₄H₈
問 2 化合物AはC₄H₈のアルケンですから、以下の3つの構造式が考えられます。
① CH₃-CH₂-CH=CH₂
1-ブテン
② CH₃-CH=CH-CH₃
2-ブテン
③ CH₂=C(CH₃)₂
2-メチルプロペン
① に塩化水素が付加すると、
CH₃-CH₂-C*HCl-CH₃
2-クロロブタン
CH₃-CH₂-CH₂-CH₂Cl
1-クロロブタン
② に塩化水素が付加すると、
CH₃-CH₂-C*HCl-CH₃
2-クロロブタン
③ に塩化水素が付加すると、
付加反応の結果、不斉炭素原子をもつ生成物は、2-クロロブタンであり、このとき、同時に少量の生成物も得られることから、Aは1-ブテン、Bは2-クロロブタン、Cは1-クロロブタンとなります。
(マルコフニコフ則)
一般にR-CH=CH₂へH-Xが付加する場合、H原子の数が多いC原子にH原子が付加しやすく、XはH原子の数が少ないC原子に付加します。
R-CHX-CH₃ (多) R-CH₂-CH₂-X (少)
R-CHX-CH₃(多)
R-CH₂-CH₂-X(少)
(c)より、1-ブテンをオゾン分解すると、プロピオンアルデヒドとホルムアルデヒドが生成し ます。
分子量はアルデヒドEの方が大きいので、Eがプロピオンアルデヒド、Dがホルムアルデヒド となります。
(二重結合のオゾン分解)
したがって、答は次のようになります。
問 3 化合物Bの分子式はC₄H₉Clですから、次のような異性体が考えられます。
2-クロロブタンは不斉炭素原子をもちますから、光学異性体が存在します。したがって、異性体の数は5種類になります。
答 5種類
【2】
問 1
分子量はロイシン131、フェニルアラニン165です。ポリペプチドはアミノ酸1分子から水1分子が脱離して縮合重合した構造ですから、その分子式は
(131+165-18×2)×1.0×105=2.60×107
*問の中の1.0より有効数字は2桁で答えます。
答 2.6×107
この種の問題(高分子の縮合重合)はポリペプチドの両末端では、水分子の脱離が行われていません から、厳密には計算された分子量に18加えておく必要があります。しかし、この問題の場合、与えられている条件から、解答は有効数字2桁でよく、上記のように計算しても問題ありません。
必須アミノ酸・・・バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、リシン、メチオニン、トリプトファン、トレオニン
必須アミノ酸の名前やグリシン、アラニン、チロシン(ベンゼン環を含む)、システイン(硫黄を含む)、リシン(塩基性アミノ酸)、グルタミン酸(酸性アミノ酸)の構造式は覚えておいた方が良いでし ょう。それらの分子量が与えられていない問題もありますから。
問 2
バリンの分子量は117です。バリン1分子から水1分子が脱離しているので、窒素の含有量は
答 14.1%
*問の中の100より有効数字は3桁で答えます。
2018年センター試験(化学)
第6問
問 1 熱硬化性樹脂であるものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
① 尿素樹脂
② ポリ塩化ビニル
③ ポリエチレン
④ ポリスチレン
⑤ メタクリル樹脂(ポリメタクリル酸メチル)
第7問
問 1 タンパク質に関する記述として誤りを含むものを、次の①~⑤のうちから一つ選べ。
① ポリペプチド鎖がつくるらせん構造(α-ヘリックス構造)では、の水素結合が形成されている。
② ポリペプチド鎖にある二つのシステインは、ジスルフィド結合(S-S結合)をつくることができる。
③ 加水分解したとき、アミノ酸のほかに糖類やリン酸などの物質も同時に得られるタンパク質を、複合タンパク質という。
④ 繊維状タンパク質では、複数のポリペプチドの鎖が束(束状)になっている。
⑤ 一般に、加熱によって変性したタンパク質は、冷却すると元の構造に戻る。
(解答)
第6問
問 1
合成樹脂のなかには加熱することによって、やわらかくなる熱可塑性樹脂と加熱することによって、硬くなる熱硬化性樹脂があります。一般的に熱可塑性樹脂は、単量体が右図のような構造を持ち、付加重合によって直鎖状の分子構造をとります。または、1分子の中に2個の官能基を持つ単量体が縮合重合して、直鎖状の分子構造をとる場合もあります。
それに対して、熱硬化性樹脂(尿素樹脂やフェノール樹脂など)では、単量体1分子の中に2個または3個の官能基を持ち、それらが縮合重合し、直鎖状のところどころに枝分かれを生じることによって、立体網目状の分子構造を取ります。熱硬化性樹脂の場合、加熱によって、さらに未反応の官能基の重合が進むので硬化するのです。
答 ①
第7問
問 1
らせん状構造(α-ヘリックス)
タンパク質の構造は一次構造から四次構造に分類することができます。一次構造はα-アミノ酸の配列順序、二次構造はポリペプチド鎖の形状、三次構造は二次構造の折れ重なり、四次構造は三次構造の集合体です。
らせん状構造であるα-ヘリックス構造(右図(第一学習社セミナー化学より))は、タンパク質の二次構造にあたります。その他にも波型のβ-シート構造などがあります。
ポリペプチド鎖を形成する2つのシステイン(含硫アミノ酸)により、ジスルフィド結合(S-S結合)が形成されます。ジスルフィド結合やイオン結合により、折れ曲がり構造(三次構造)が形成されます。タンパク質分子は構成成分により、α-アミノ酸のみで構成される単純タンパク質とα-アミノ酸以外に唐やリン酸、色素を含む複合タンパク質に分類されます。タンパク質が加熱(または酸・塩基、重金属イオンなど)により変性すると、立体構造が変化し、一般的に冷却しても元の構造にはもどりません。
答 ⑤
最後になりますが、このコーナーをご覧頂いた皆さんのご検討をお祈りいたします!